福岡地方裁判所 昭和45年(行ウ)20号 判決 1972年2月24日
原告
相光石油株式会社
右代理人
荒木新一
同
荒木邦一
被告
福岡県西福岡財務事務所長
藤田勉
右代理人
堤千秋
植田夏樹
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告
1 原告の昭和四四年六月分軽油引取税納申告について、被告が昭和四五年二月二八日付でした軽油引取税額を金四〇二万〇九八五円とする更正処分のうち、同税額金三三万八一五八円をこえる部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文同旨
第二、当事者の主張
一、原告の請求原因
1 原告は、地方税法(以下「法」という。)第七〇〇条の二第一項第三号にいうところの特約業者であつて、法第七〇〇条の一一第一項およびこれに基づく福岡県税条例(昭和二五年九月一日福岡県条例第三六号、以下「条例」という。)第九四条(昭和四六年三月三一日福岡県条例第一〇号による改正前の規定)による軽油引取税特別徴収義務者である。
2 ところで、原告は、昭和四四年七月三一日、被告に対し、別表「申告によるもの」欄記載のとおりの内容の税額を三三万八、一八五円とする同年六月分軽油引取税納入申告書を提出したところ、被告は、昭和四五年二月二八日付で、右表「更正によるもの」欄記載のとおりの内容の税額を四〇二万〇、九八五円とする更正決定(以下「本件更正処分」という。)をした。
3 そこで、原告は、昭和四五年三月二五日、福岡県知事に対し、本件更正処分につき、右申告税額超過部分を不服として、審査請求をしたところ、同知事は、同年四月二四日付で、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。
4 しかし本件更正処分のうち右申告税額金三三万八、一八五円をこえる部分は、違法である。
5 それで、原告は、被告に対する関係において、本件更正処分中右部分の取消しを求める。
二、被告の認否
1 前記の原告の請求原因1ないし3の各事実はいずれも認める。
2 同4の主張は争う。
三、被告の抗弁
1 原告は、昭和四四年六月三日、元売業者である訴外東洋棉花株式会社(以下「東洋棉花」という。)との間において、原告を売主とし、東洋棉花を買主として、軽油三一二キロリットルを一キロリットル当り八、二〇〇円で売り渡す旨の販売契約を締結し、東洋棉花に対し、
宛名 原告会社福岡油槽所
品名 軽油
数量 八キロリットル
出荷先 東洋棉花
なる出荷指図書三九枚を発行交付した。
東洋棉花は、同日、特約業者である訴外有限会社新興礦油(以下「新興礦油」という。)に対し、右出荷指図書三九枚を一キロリットル当り八、五〇〇円で売り渡し、新興礦油は、さらに同月五日、販売業者である訴外光栄石油株式会社(以下「光栄石油」という。)に対し、同出荷指図書三九枚を一キロリットル当り二万円で売り渡した。
光栄石油は、同日、右出荷指図書のうち六四キロリットル分八枚を特約業者である訴外共栄石油株式会社(以下「共栄石油」という。)に売り渡し、共栄石油は、これを訴外昭和商事石油株式会社(以下「昭和商事」という。)に売り渡し、昭和商事は、同月六日から同月一一日までの間に原告会社福岡油槽所より現物を引取つているが、残り二四八キロリットル分三一枚は、現物の引取がなされないまま同月五日、原告において代金一キロリットル当り二万二、〇〇〇円で光栄石油から買い戻した。
2 軽油の出荷指図書による売買(オーダー売買)においては、終局において軽油現物の引取が行われた場合、当初のオーダー売買の時に引取があつたものとするのであるが、本件においては、右にみたように原告が発行した出荷指図書三九枚のうち三一枚分二四八キロリットルの軽油については、いわゆるオーダーのみの売買に終始し、終局的に現物の引取がなされなかつたものであるから、軽油引取税の課税対象とならないものである。
3 ところが、原告は、納入申告にあたり、右出荷指図書三一枚分二四八キロリットルの軽油を「六月中における軽油の引渡数量」「法第七〇〇条の三の規定により除外される軽油の数量」および「法第七〇〇条の五第二号の規定により課税免除される軽油の数量」にそれぞれ含めているので、被告は、右各項目につき右二四八キロリットルをそれぞれ否認し、原告が昭和四四年六月中に現実に他に売り渡しかつ引取を伴つた軽油の数量および条例第八九条第一項第一号に定める自家消費の数量に対し、別表「更正によるもの」欄記載のとおり課税したものである。
4 以上の理由により本件更正処分は適法である。
四、原告の認否
1 前記の被告の抗弁1の事実はすべて認める。
2(一) 同2のうち、軽油二四八キロリットルについては引取がなされず、軽油引取税の課税対象とはならないとの主張は争う。
(二) 軽油の出荷指図書による売買においては、出荷指図書による軽油の引取が行われた場合には、その時点において、右出荷指図書による売買経路の全般にわたつて、順次引取がなされたことになるのであるから、本件においても、出荷指図書三一枚が原告に買い戻された後に、それに相応する二四八キロリットル以上の軽油が逐次他に販売され、その都度引取がなされたのであるから、その各時点において、右出荷指図書による軽油の売買経路の全般にわたつて、順次引取がなされたということができる。
すなわち、出荷指図書が一旦発行者自身の所持に帰したとしても、その効力が当然に消滅するものではなく、これに表章された軽油がさらに転売されたうえ引取がなされた場合、当該引取によつてはじめて当該出荷指図書はその使命を全うして効力を失なうに至るものであり、また、出荷指図書自体の同一性は、発行者自身の所持に帰したからといつてなんら失われるものではなく、最終的に当該出荷指図書による軽油の引取があつた場合、その時点において、右出荷指図書による軽油の売買経路の全般にわたつて引取が行われたと解することにはなんら変りはない。
3 同3の事実は認めるが、同4の主張は争う。
第三、証拠<略>
理由
一、原告が軽油等の特約業者であり、軽油引取税の特別徴収義務を負つているところ、昭和四四年六月に徴収すべき軽油引取税について、その主張のごとき内容の納入申告をしたこと、被告が昭和四五年二月二八日付で、右納入申告にかかる「六月中における軽油の引渡数量」七八五・四九五、二キロリットルを五三七・四九五、二キロリットルと、「法第七〇〇条の三の規定により除外される軽油の数量」三一二キロリットルを六四キロリットルと、「法第七〇〇条の五第二号の規定により課税免除される軽油の数量」二八四・二七二、三キロリットルを三六・二七二、三キロリットルとそれぞれ更正し、その結果軽油引取税額三三万八、一八五円を四〇二万九八五円と更正決定したことおよび原告が福岡県知事に対し審査請求したところ、同知事が、同年四月二四日付で、右審査請求を棄却したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、被告は、本件更正処分の理由として、原告が東洋棉花との間において締結した販売契約に基づき発行交付し、以後東洋棉花から新興礦油、新興礦油から光栄石油へと転売された軽油三一二キロリットル分の出荷指図書三九枚のうち、二四八キロリットル分三一枚については、結局光栄石油から原告へと買い戻され、終局的に現物の引取がなされずに終つたものであるから、右二四八キロリットルの軽油に関する取引は軽油引取税の課税対象とはならず、原告が納入申告にあたり右二四八キロリットルを「六月中における軽油の引渡数量」「法第七〇〇条の三の規定により除外される軽油の数量」および「法第七〇〇条の五第二号の規定により課税免除される軽油の数量」にそれぞれ含めているのは誤りであるから、これらを否認した旨主張する。
そこで、以下この点について検討する。
1 原告が昭和四四年六月三日、軽油三一二キロリトッルを東洋棉花に売り渡す旨の契約をし、被告主張のごとき内容の出荷指図書三九枚を発行交付し、以後石油出荷指図書は、被告主張のような流通経路をたどり、軽油六四キロリットル分八枚は昭和商事が買い受け、同社においてこれに相当する右数量の軽油現物を原告から引取つたが、残りの二四八キロリットル分三一枚の出荷指図書はこれに相当する軽油の引取がなされないまま、原告に買い戻されたことは当事者間に争いがない。
そして、<証拠>によると、原告は、昭和四四年六月光栄石油の紹介で元売業者である東洋棉花から軽油の注文があり、それまでに東洋棉花とは取引がなく、また代金は約束手形で支払うということであつたので、同月三日、軽油三一二キロリットルを売り渡す旨の契約をし、被告主張のような内容の出荷指図書を発行交付したこと、右出荷指図書は、転々譲渡され、光栄石油より原告に対し、右出荷指図書を安値で買い入れているが、これを市場に出せば、市況をみだすおそれがあるので買い取つてもらいたいという話があつたので、原告は、同月五日、右出荷指図書のうち二四八キロリットル分三一枚を軽油引取税額(一キロリットル当り一万五、〇〇〇円)を含んだ値段で買い戻したこと(特約業者である新興磯油は、一般の販売業者である光栄石油に売り渡す段階で軽油引取税の徴収として所定金額を光栄石油から受領している。)原告は、その後、右出荷指図書三一枚に表示された数量以上の軽油の現物を逐次仕入れて他に売り渡したが、帳簿上そのうち最初に販売した二四八キロリットルについてこれを右指図書数量に相当する課税済軽油を販売したものとして取扱い、それを超えた分についてのみを軽油引取税特別徴収分として納入申告をたしたこと、また、原告会社には、同月三日当時、前記三一二キロリットルもの軽油の在庫はなく(原告会社福岡油槽所における同月二日現在の在庫は53.420キロリットルであり、翌三日に一三キロリットルの入荷があつたのみである。)その後も右出荷指図書三一枚を買い戻すまでの間において、右指図書数量に相当する軽油の入荷はなかつたこと、以上の事実がそれぞれ認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。
2 ところで、軽油引取税の課税対象として法第七〇〇条の三第一項に定める「軽油の引取」とは、軽油の所有権を確保、行使する目的をもつて他人から当該軽油の占有の移転を受けること、すなわち、所有権取得の目的物件として他人から軽油の引渡し(必ずしも現実の占有移転に限らない各種の方法による引渡し)を受けることを指すものであり、したがつてその占有の対象となる軽油の現存、特定を要するとともに、異なる人格間における軽油の占有の移転を要するものと解すべきである。
軽油の譲渡が出荷指図書(いわゆるオーダー)によりなされる場合の法所定の「引取」の有無については、出荷指図書発行の当初より右指図書に対応する軽油が現存している限り、その現物の引渡しを伴わずに右指図書が転々交付譲渡された後、その最終所持人において発行者から当該特定軽油現物の引渡しを受けたときは、右引渡しの時点において、同時に、右出荷指図書の転々譲渡の経路に従う順次の現物の引渡しすなわち「引取」がなされたものと解することができ、また、出荷指図書発行の時点において、これに対応する軽油が現存特定していなかつた場合でも、終局的に特定の軽油として、発行者から所持人に対し対応する軽油現物の引渡しがなされるに至つたときには、右引渡しの時点において、同時に、前同様の順次の「引取」がなされたものと解することも、あながち不可能ではない。
しかしながら、本件においては、前示各事実によると、原告発行にかかる本件出荷指図書三一枚に相当する二四八キロリットルの軽油に関しては、右指図書発行の当時において、原告はこれを所持しなかつたのはもちろん特定もしていなかつたものであるのみならず、その後においても、結局右指図書に対応する特定の軽油として原告より指図書所持人に対する軽油現物の引渡しがなされないまま、右指図書自体が発行者たる原告によつて買い戻されたのであるから、右指図書の目的物件たる軽油二四八キロリットルについては、いまだ「引取」がなされないものというべきである。
また、「軽油の引取」が成立するためには、異なる人格間における軽油現物の占有移転を要するものである以上、出荷指図書発行者たる原告において、これに対応するものとして軽油現物を分別、特定して保存していたとしても、指図者買戻しによつて「引取」がなされたものということはできないから、買戻し後に原告が右軽油現物を右指図書譲渡の方法によらないで、新たに他人に販売して引渡したにしても、そのとき右新たな販売による「引取」が別途になされたことになるにすぎず、前記指図書による譲渡に基づく「引取」がなされたものと認めることはできない。ましていわんや本件の場合、本件出荷指図書に対応するものとして軽油現物が特定、保存されていたものでもないから、原告が逐次仕入れて他人に販売し引渡した軽油の総数量のうち本件買戻し指図書分に相当する数量をもつて、当該指図書に対応する軽油現物の「引取」のなされた数量とすることができないのは、いうまでもない。
三してみると、被告が原告の本件申告につき、軽油二四八キロリットルをその主張にかかる各項目につき否認したのは正当であり、本件更正処分は適法である。
よつて、本件更正処分の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(桑原宗朝 渡辺惺 浦野信一郎)